長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科
展開医療科学講座 口腔腫瘍治療学分野
Department of Clinical Oral Oncology, Unit of Translational Medicibe,
Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences
長崎大学病院 口腔外科
Department of Oral Surgery, Nagasaki University Hospital
患者さまへ 診療内容について
智歯抜歯
●智歯抜歯とは
智歯とは俗に親知らずとも呼ばれ、一番前の前歯から数えると8番目に生えてくる歯で、医学用語では第三大臼歯と表記します。その智歯の周囲組織におこる炎症を「智歯周囲炎」と呼び、半埋伏状態または完全埋伏状態の下顎智歯に食片の貯留や細菌の繁殖がおこると発生します。
症状としては智歯の周りの歯肉が赤く腫れて痛みを感じ、症状がひどくなると開口障害や嚥下痛が発生することがあります。その炎症の原因となる智歯を抜歯する際に、その智歯が水平方向または垂直方向に埋伏していると抜歯が困難となります。(図1・2)
図1
図2
Ⅰ.智歯抜歯手術
抜歯をどのようにおこなうかについて簡単に説明します。普通に生えている歯の場合には、鉗子を使って歯を歯槽骨から脱臼させて抜歯するのですが、埋まっている歯の場合は歯を覆っている歯肉を切開して、さらに歯を包んでいる歯槽骨を削除する必要があります。(図3)
その後、埋伏歯の歯冠の部分と歯根の部分の境目を切削器具で切断して、歯冠を取り除いた後、歯根を抜きます。(図4) さらに抜歯後の抜歯窩や周囲組織に存在している不良肉芽組織や歯肉、骨の削除片などを掻爬し、生理食塩水で充分に洗浄します。最後に切開した部分を縫合したら抜歯手術終了です。
Ⅱ.術後について
抜歯手術を受けられる患者さんにとって、手術と共に心配なのが手術後の痛みや腫れだと思います。埋伏智歯抜歯手術を受けられた患者さんは、個人差はありますが数日間抜歯後の傷口に痛みがあり、腫れは約1週間程度継続します。抗菌薬や鎮痛剤が処方されますので、日常生活に支障となることはほとんどありませんが、運動は控えたほうが良いと思われます。
その他抜歯手術術後におこりうる偶発症としては、抜歯後出血、抜歯後感染、知覚鈍麻などがあります。抜歯後出血については、患者さんが血液疾患、肝硬変、坑血栓療法などの全身的な要因を持っている場合にはリスクが高まりますので、手術前に主治医から問われる質問に正確に答えていただくようにしてください。抜歯途中に出血がおこった場合には、手術器具や局所止血剤を用いて止血いたします。また手術が終了して帰宅後に再び出血した場合には、当院からお渡しする止血用ガーゼを30分程度咬んでもらい、それでも相当量の出血が続く場合には再度来院していただくようにしています。
図3
図4
抜歯後感染をおこすと、ときに抜歯をおこなった周囲組織にとどまらず顎骨周囲、さらには顎下や咽頭周囲に炎症が波及することがあります。投与された抗菌薬は痛みや腫れの有無にかかわらず必ず服用するようにしてください。 下顎智歯抜歯時に、頻度は低い(0.4~5.2%)のですが下歯槽神経知覚鈍麻をおこすことがあります。具体的には抜歯した側の下唇からオトガイ部の皮膚の感覚が鈍くなることが稀にあります。抜歯する智歯の根尖と下歯槽神経が近接している場合は、上記の発生頻度より高い確率で症状が出てしまいますので、CT撮影を行い、根尖のどちら側に神経が走行しているかを判定後、その結果を考慮してより損傷の少ない結果になるような抜歯術を行っています。(図5・6)
図5
図6 長谷川巧実ら 2010より改変引用