長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科
展開医療科学講座 口腔腫瘍治療学分野
Department of Clinical Oral Oncology, Unit of Translational Medicibe,
Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences
長崎大学病院 口腔外科
Department of Oral Surgery, Nagasaki University Hospital
患者さまへ 診療内容について
有病者歯科
●有病者歯科とは
何らかの持病があるために一般歯科医院で安全に治療を受けられない方の歯科治療を行っています。一般歯科治療は主に特殊歯科総合治療部で行っていますが、抜歯などの外科処置を伴う場合は当科で行います。当科では例えば以下のような治療を行っています。
Ⅰ.抗血栓療法を受けている方の抜歯
脳梗塞、心筋梗塞、心房細動、弁膜症などの病気をしたことのある方は、血栓塞栓症予防のために抗血栓薬を服用しています。以前は抜歯を行う際には数日前から抗血栓薬を中止してから施行していましたが、抗血栓薬中止により重篤な血栓塞栓症を生じることがあることから、最近では抗血栓薬を中止や減量せずに継続したまま行うのが一般的となっています。
抗血栓薬は抗凝固薬(ワーファリンなど)と抗血小板薬(バイアスピリンなど)の二つに大別されます。ワーファリン継続下で抜歯をする場合は、抜歯当日に血液検査でPT-INR(ワーファリンの効果を判定する検査)を測定し、一定の範囲(至適治療域)にあることを確認してから行います。
われわれは最近、多数例の検討から、ワーファリン継続下で抜歯をすると、抜歯後出血率は約10%と通常に比べて10倍程度頻度が高くなることや、後出血のほとんどは24時間以内に起こることを報告しました(図1)。後出血を生じてもほとんどの場合で局所止血法が奏功し、重篤な後出血をきたすことはまれですが、抜歯後出血のために死亡した例の報告もあります。
当科では夜間の出血に備え、ワーファリン継続下で抜歯する場合、抜歯当日1泊入院をお勧めしています。一方、バイアスピリン継続下で抜歯を行う場合は、後出血率は通常に比べて2~3倍程度高くなる程度ですが、いったん後出血を生じた場合、止血に苦慮することがまれにあります(図2)。
図2 バイアスピリン服用患者の抜歯後出血
1週間再出血を何度か繰り返した
Ⅱ.ビスフォスフォネート剤(BP製剤)服用中の方の抜歯
骨粗鬆症予防のためにBP製剤を服用している方が最近増えてきました。BP製剤服用中に抜歯をすると、骨壊死(ビスフォスフォネート関連顎骨壊死;BRONJ)を生じることがあります(図3)。
経口BP製剤を長期間服用している方や、服用機関は短かくても糖尿病の持病があったりステロイド剤を投与されている方などでは、BP製剤を3か月間中止してから抜歯を行います。抜歯の際には感染を避けるために入院下で抗菌薬の点滴をしながら行うなどの工夫をしています。
これらの対応を行うことにより、BP製剤が投与されていた方でもBRONJの発症をほぼ完全に予防できることを、最近われわれの施設を含めた多施設共同研究で明らかにしました。
図3 BP製剤服用中に抜歯を行い、
BRONJを発症した1例
Ⅲ.薬剤アレルギーのある方の局所麻酔を伴う歯科処置
薬剤アレルギーの中で頻度は低いが最も重篤なものにアナフィラキシーショックがあります。毎年のように歯科治療時にアナフィラキシーショックを起こし死亡した事例が全国のどこかで報告されています。
アナフィラキシーショックは予測できないことも多く、いったん生じると致死率は高いのですが、病院で必要な対策(血管確保の上、エピネフリンなどの薬剤や酸素の準備)をとるとたとえアナフィラキシーショックが起こっても死亡にまで至ることはまれです。過去の既往からアレルギーの疑いがある場合は、病院で治療を行ったほうが安全です。