長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科
展開医療科学講座 口腔腫瘍治療学分野
Department of Clinical Oral Oncology, Unit of Translational Medicibe,
Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences
長崎大学病院 口腔外科
Department of Oral Surgery, Nagasaki University Hospital
患者さまへ 診療内容について
神経性疾患
●神経性疾患
口腔領域にはさまざまな神経性疾患が発症しますが、ここでは比較的頻度の高い、三叉神経痛、顔面神経麻痺、舌痛症/口腔異常感症について説明します。
Ⅰ.三叉神経痛
口腔、顎、顔面には多くの知覚神経が走行しており、さまざまな原因で神経痛が起こることがあります。このうち最も頻度の高いものに三叉神経痛があります。三叉神経とは顔面や顎に分布している神経で、三叉神経痛には原因不明の特発性神経痛と、頭蓋内腫瘍など何らかの原因に続発して生じる症候性神経痛に分類されます。 特発性三叉神経痛は中高年の女性に多くみられ、目の周り、頬部、下顎部などに間欠的で電気が走るような激痛が走るのが特徴です。特定の部位(眼窩下や下顎部など)を押すと痛みが出現したり(バレーの圧痛点)、口のまわり、口角、鼻の横などを洗顔時などに触れると痛みが出現(パトリック発痛帯)する場合があります。痛みは持続時間は短いものの、日常生活に支障をきたすほどの激痛を生じることもまれではありません。
【治療】
①薬物療法、②神経ブロック、③ガンマナイフ、④神経減圧手術などがあります。当科では麻酔科(ペインクリニック)や脳神経外科などとも連携を取りながら、最適な治療を行っています。症候性三叉神経痛は若年者にも認められ発痛領域も広い場合があります。症候性三叉神経痛の治療は、CTやMRIで原因疾患を診断した上で、原因疾患の治療が中心となります。
Ⅱ.顔面神経麻痺
顔面神経とは笑ったり口を尖らせたりするなどさまざまな顔の表情を作っている表情筋と呼ばれる筋肉を動かす働きをする神経で、顔面神経が何らかの原因で傷害されると表情筋が動かなくなり、額にしわを寄せられない、眼を閉じられない、口角が垂れ下がる、口を尖(とが)らせて口笛がふけなくなる、口角からよだれが垂れる、などの症状が起こります。また、顔面神経麻痺は通常片側の顔面に起こるため、笑ったりすると顔が歪んでしまいます。
顔面神経麻痺の原因はさまざまですが、ヘルペスウイルスの感染が原因で起こるものが多いとされています。このうち単純ヘルペスウイルスが原因で生じるベル麻痺(最近まで原因が明らかにされておらず特発性麻痺と呼ばれていた)は最も頻度が高く、突然麻痺が起こりますが、薬物療法で比較的簡単に治ることが多いタイプです。耳部の水疱や喉の痛みなどに続いて麻痺が生じるハント症候群は、水痘ヘルペスウイルスが原因と考えられており、ベル麻痺に比べて麻痺の後遺症が残りやすいので早期治療が重要です。ベル麻痺とハント症候群を含めて、顔面神経麻痺の約80%がヘルペスウイルスの感染によるものとされています。
【治療】
治療は薬物療法が中心で、抗ウイルス薬や副腎皮質ステロイド剤を使用します。特にハント症候群では麻痺が後遺する可能性があることから、入院管理下でしっかりとした薬物療法を行うほうが望ましいと考えられています。
一方、腫瘍の手術や外傷などにより顔面神経が切断された場合や、ベル麻痺・ハント症候群でも1年以上経過して麻痺が残ってしまった場合などでは薬物療法では治癒が望めず、さまざまな形成手術を要することがあります。手術は形成外科で行います。
Ⅲ.舌痛症、口腔異常感症
舌に明らかな器質的変化がないものの、舌尖や舌縁、あるいは舌全体に表在性にヒリヒリ感やピリピリ感、灼熱感などの症状を認めるものを舌痛症といいます。舌以外の口腔内に同様に明らかな原因がないにもかかわらずヒリヒリ感やピリピリ感、あるいは違和感などを感じるものを口腔異常感症といいます。
【舌痛症/口腔異常感症の特徴】
①症状が長期間、時には数年以上にわたって続くこと
②安静時に症状が強く食事中や会話中は軽快すること
③40歳以降の女性、特に60歳前後の女性に好発すること
④血液検査やX線検査など検査で異常値を認めないこと
原因がないにもかかわらず症状を訴えることや複数の病院を繰り返し受診する患者さんも多いことから、性格や心身症、あるいはうつ病など心理的要因との関連を強調する考えもありますが、明らかな性差と好発年齢を考慮すると、心理的なものが主要な原因と考えるのは不適切と思われます。
【治療】
舌痛症/口腔異常感症の治療は、まず血液検査などで他の原因を除外診断した後、患者さんにこの疾患の特徴を十分に理解していただくよう説明を行います。本疾患は原因も不明で根本療法は困難ですが、必ずしも治療は必要ありません。
しかし症状が強く日常生活に支障をきたすような場合は薬物療法を行います。有効な薬剤は少ないのですが、抗不安薬(メイラックス、デパズ、セパゾンなど)または抗うつ薬(パキシル、トレドミンなど)などを投与します。症状によっては心療内科や精神神経科での治療をお勧めする場合もあります。