長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科
展開医療科学講座 口腔腫瘍治療学分野
Department of Clinical Oral Oncology, Unit of Translational Medicibe,
Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences
長崎大学病院 口腔外科
Department of Oral Surgery, Nagasaki University Hospital
患者さまへ 診療内容について
唾液腺疾患
●唾液腺疾患
口の中には唾液を出す機能をもつ唾液腺という腺組織があります。左右一対の大唾液腺(耳下線、顎下線、舌下腺)と多数の小唾液腺から構成されます。唾液腺には感染症、腫瘍、自己免疫疾患をはじめとしてさまざまな病気が発生しますが、ここでは唾石症と口腔乾燥症について説明します。
Ⅰ.唾石症
唾液腺の中や導管(唾液が流れる管)の中に石(唾石)ができることによって生じる病気で、ほとんどは顎下腺あるいは顎下腺の導管(ワルトン管)に生じます(図1)。
図1 レントゲン(左)ならびにCT像(右)に写った唾石(矢印)
【特徴】
唾石の原因は導管の炎症や唾液の停滞、唾液の性状の変化などによると考えられており、その大きさは砂粒大の小さなものから数cmに及ぶものまでみられます。唾石症の症状としては、顎下部や口底部の腫れはみられるが痛みのないものから、食事直後あるいは食べている最中に唾仙痛(だせんつう)と呼ばれる激しい痛みを伴うものまでさまざまです。痛みや腫れを自覚する場合でも食後しばらくすると徐々に消退するのが特徴です。
【治療】
小さな唾石は自然に流出することもありますが、流出が不可能な場合は手術により取り出すことが一般的です。ワルトン管の唾石症の場合は口腔内から唾石を摘出しますが、顎下腺内の唾石症の場合は顎下部切開により顎下腺ごと唾石を摘出します。摘出は簡単なものは局所麻酔で可能ですが、全身麻酔下での手術を要する場合もあります。
Ⅱ.口腔乾燥症
何らかの原因により口の中が乾く状態や乾いた感じを自覚するものをドライマウスといいます。原因として薬剤性(鎮静剤、副交感神経遮断剤、抗ヒスタミン剤、利尿剤、抗神経薬、麻薬、降圧剤など)、加齢による唾液腺の萎縮、放射線治療による放射線障害、糖尿病、脳血管障害、シェーグレン症候群など唾液の分泌量の低下によるものと、心因性、口呼吸など唾液の分泌量の低下を伴わないものとに大別されます。唾液の分泌量はガムテスト(ガムを10分間噛んでもらい10cc以下であれば分泌量減少)やサクソンテスト(ガーゼを2分間噛んでもらい2g以下であれば分泌量減少)などにより簡単に判定ができます。
【治療】
ドライマウスの治療法は、その原因によりさまざまです。
薬剤性の場合は、症状の程度により服用薬剤の減量、中止、変更が必要となる場合があります。加齢による場合は、唾液腺ホルモン製剤や去痰剤の投与、あるいはオーラルバランスなど唾液代替剤による対症療法を行います。放射線治療による場合、唾液分泌を促進する薬剤(塩酸ピロカルピン:サラジェン)の投与の投与や、唾液代替剤の使用を行います。
シェーグレン症候群は自己免疫疾患の一つで、口腔乾燥だけではなく眼の乾燥も伴います。治療は免疫内科や眼科と協力の上、口腔乾燥に対しては唾液分泌促進剤(塩酸セビメリン:サリグレン、エボザック)の投与や対症療法を行います。
唾液の分泌量の低下によらないドライマウスに対しては、心因性の場合心療内科や精神科との連携の上で、十分な口腔ケアを行います。口呼吸(鼻ではなく口から呼吸をする)の場合も口腔乾燥症をきたしますが、口呼吸そのものの原因を診断し治療することが必要です。
唾液が減少すると口腔内の自浄作用の低下により口腔内が不潔になり、う蝕や歯周病などに罹患しやすくなるだけではなく、高齢者や免疫能の低下している人では誤嚥性肺炎を発症することもあります。口腔乾燥の原因にかかわらず、十分な口腔清掃とともに早期の歯科受診が必要です。