長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科
展開医療科学講座 口腔腫瘍治療学分野
Department of Clinical Oral Oncology, Unit of Translational Medicibe,
Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences
長崎大学病院 口腔外科
Department of Oral Surgery, Nagasaki University Hospital
患者さまへ 診療内容について
顎関節疾患
●顎関節疾患
顎関節とは下顎骨の後上方にある下顎頭と頭蓋骨の下面にある下顎窩から構成される関節で、耳の穴(外耳道)の前にあります。私たちはものを噛むとき単に上下だけではなく左右にあごが動くようになっていますが、これは顎関節が回転だけではなく左右別個に前後にすべるように動く(滑走運動)ことができる、他の部位の関節にはみられない特殊な構造をしているからです。顎関節に生じる疾患には発育異常、外傷、炎症、退行性関節疾患あるいは変形性関節症、腫瘍および腫瘍類似疾患、全身性疾患に関連した顎関節異常(顎関節強直症・顎関節症)などさまざまなものがありますが、ここでは比較的頻度の高い、顎関節症と顎関節脱臼について説明します。
顎関節症とは顎運動障害、関節痛、関節雑音の3つの症状が単独もしくは合併して発現する疾患です。関節痛は強く噛んだときや大きく口を開けたときに生じることが多く、関節雑音には口を開けるとカックンと何かを乗り越えるような音(クリック)とギシギシとこすれるような音(クレピタス)とがあります。その他の症状として、頭痛、首や肩のコリなどがみられることもあります。発生頻度は高く子供から大人まで幅広く発症しますが、特に20~30歳代の女性に好発する傾向があります。顎関節症の原因は、異常な口の開け閉め、歯ぎしり(ブラキシズム)、噛みあわせの異常や筋緊張、生活習慣、心理的ストレスなど、さまざまな要因が複合して発症すると考えられており、個々のケースで原因を特定することは必ずしも容易ではありません。 顎関節症の診断は臨床所見から明らかなことも多いのですが、症状によってはMRIやCTを撮影し、関節の骨や関節円板などの異常を検査します。顎関節症はその病態により、1型:咀嚼筋障害、2型:関節包・靭帯障害、3型:関節円板障害、4型:変形性関節症、5型:その他の5つの症型に分類されています。顎関節症の治療は症型や症状の強さなどにもよりますが、消炎鎮痛剤、筋弛緩剤、抗不安薬などの薬物療法、マウスピース(スプリント)療法、低周波通電療法や関節可動化訓練などの理学療法、関節腔洗浄療法などの保存療法が中心です。以前は開放手術や関節鏡視下手術などの外科療法が広く行われていた時期もありますが、現在では顎関節強直症(口がほとんど開かない状態)など特殊な場合を除き外科療法が行われることはほとんどありません。
●顎間接脱臼
口が大きく開いたまま閉じれなくなる状態を顎関節脱臼(いわゆるあごがはずれた状態)といいます。関節頭が前方に存在する関節結節の前にはまりこみ戻れなくなった状態です。通常は徒手で容易に整復可能ですが、再脱臼を予防するためにしばらくの間は大きく口を開けることを制限します。最近、認知症を有する高齢者の方などで顎関節が毎日のようにはずれる「習慣性顎関節脱臼」が増加しています。このような場合は手術療法が行われます。 習慣性顎関節脱臼の手術法には、関節結節を高く形成して下顎頭が結節の前まで移動できなくする方法、関節結節を低く形成して開口時に移動した下顎頭が容易に戻ることができるようにする方法、下顎頭を切除する方法など、さまざまな方法があります。いずれも入院の上、全身麻酔が必要ですが、比較的簡単な手術でご高齢の方でも安全に受けることができます。当科では習慣性顎関節脱臼の手術を積極的に施行しており、再脱臼もなく良好な治療成績を得ています。