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患者さまへ 診療内容について

粘膜疾患

Ⅰ.白板症

 白板症とは、他のいかなる疾患としても特徴づけられない著明な白色の口腔粘膜の病変と定義されており、直接的な原因は不明ですが、誘因としてタバコや不良補綴物などがあげられています。好発部位は舌、頬粘膜、歯肉などで、肉眼的に均一型と非均一型に分けられます。白板症は代表的な口腔がんの前がん病変であり、がん化率は3.1%~16.3%とされていますが、10年累積がん化率は約30%という報告もあります。女性の白板症、50歳以上の白板症、可動粘膜(舌・頬粘膜・口底)に発生したもの、非均一型、組織学的に異型上皮を認めるものなどでは特にがんになりやすいと考えられています。

 治療は外科的切除、レーザーによる蒸散、ビタミンAなどの薬物療法などがありますが、前がん病変であることを考えると、確実に切除することが望ましいと考えられます。当科では可動粘膜に発生した白板症は基本的に外科切除を行うようにしています。

図1 舌に発生した白板症

Ⅱ.口腔カンジダ症

 口腔領域で問題となる真菌感染症はそのほとんどがカンジダ症です。臨床症状は剥がれやすい白苔のみられる鵞口瘡が良く知られていますが、発赤や表面粘膜の萎縮のみられる症例や、厚く剥がれにくい白苔が部分的に付着する症例なども存在します。

 口腔カンジダ症の原因菌のほとんどはCandida albicansです。病変は口腔内のあらゆる部位に生じますが、軟口蓋、舌、頬粘膜などに好発します。口腔カンジダ症患者の約2/3に基礎疾患(悪性腫瘍、自己免疫疾患、糖尿病、免疫抑制状態など)がありますが、健常者に発生することもあります。

口腔カンジダ症は以下の4型に分類されています。

 

1)急性偽膜性口腔カンジダ症  剥がれやすい白苔が付着。鵞口瘡。

2)急性萎縮性口腔カンジダ症  口腔粘膜や舌の発赤,萎縮がみられる。

   疼痛を伴う。抗菌薬使用中や鵞口瘡の白苔剥離後などに生じる。

3)慢性萎縮性口腔カンジダ症  

   びまん性の発赤、時にびらんや亀裂を生じる。義歯装着部に多い。

4)慢性増殖性口腔カンジダ症

   剥がれにくく厚い舌苔が付着。喫煙者や義歯使用者などにみられる。

 

口腔カンジダ症の治療は、抗真菌薬を含んだ含嗽剤によるうがいだけで治る場合も多くみられますが、抗真菌薬の内服や点滴投与を行う場合もあります。基礎疾患に伴う場合は、その疾患の治療が重要です。

図2 舌および頬粘膜に発生した

    口腔カンジダ症

Ⅲ.口腔扁平苔癬

 口腔粘膜における慢性の角化異常を伴う病変のひとつで、レース状あるいは網目状の白色病変を呈します。発赤やびらんを伴うこともしばしばみられます。びらんを伴う場合は食事時に痛むなどの症状を認めますが、特に自覚症状がない場合もあります。頬粘膜、歯肉、舌に多く発生し、典型例では左右対称にみられます。若年者にはまれで多くは中年期以降、特に女性に多くみられます。原因は不明ですが、何らかの免疫異常が考えられています。皮膚にも扁平苔癬という疾患がありますが、口腔扁平苔癬との関連性は不明です。口腔と皮膚の両者に扁平苔癬を発症することもありますが、口腔扁平苔癬の患者の多くは口腔内のみに病変を有します。診断は典型例では肉眼所見のみで可能ですが、他の口腔粘膜疾患と鑑別が困難な場合では生検により診断されます。また、C型肝炎の患者にも同様の口腔病変を認めることがあり、血液検査で確認します。以前は口腔扁平苔癬は前がん病変の一つと言われていましたが、現在では口腔扁平苔癬ががん化することはまれと考えられています。

 口腔扁平苔癬の根治療法はなく、何年にもわたって続く場合も少なくありません。疼痛などの症状がなければそのまま経過観察のみ行いますが、食事でしみるなどの自覚症状を認める場合は、通常の口内炎と同じようにステロイド軟膏の塗布が疼痛を緩和するのに有効です。抗アレルギー薬、免疫調整剤(セファランチン)、ある種の胃薬(ガスロンN)などの内服が有効との報告もありますが、内服薬で治癒することはまれです。口腔扁平苔癬は前述の通りがん化することはまれですが、口腔扁平苔癬と前がん性口内炎の鑑別が困難な場合も少なくなく、定期的な経過観察が推奨されます。

図3 頬粘膜に発生した口腔扁平苔癬

Ⅳ.アフタ性口内炎

 最も頻度の高い口腔粘膜疾患で、ほとんどの人が一度は経験したことがあると思います。類円形の偽膜性小潰瘍で、潰瘍の周辺には炎症性発赤や浮腫を伴います。原因は明らかになっておらず、あらゆる年齢の人に発生します。通常1~2週程度で治癒しますが、食事時に疼痛を自覚するため、対症療法としてステロイド軟膏塗布、口腔清掃などの局所療法が行われます。

Ⅴ.単純疱疹(ヘルペス性口内炎・口唇ヘルペス)

 単純疱疹ウイルスの感染によって生じる口内炎です。単純疱疹ウイルスは1型と2型に分かれますが、一般に口唇や口腔粘膜に病変を生じるものはほとんどが1型による感染です。ヘルペス性口内炎は単純疱疹ウイルスの初感染によって生じる疾患で、小児に好発し.3~8日間の潜伏期間の後、発熱、食欲不振、全身倦怠感などの症状とともに口腔粘膜に小水疱が多発します。水疱は破れてびらんないしアフタ様となり、口腔粘膜全体が発赤してアフタ性口内炎のような像を呈するようになります。治療は安静と栄養・水分補給のみでよく、経過は良好です。口唇ヘルペスは20~30歳代の成人に好発し、単純疱疹ウイルスの再発と考えられています。赤唇部と皮膚の移行部に直径1~3mmの小水疱が群がって発現し、水疱はすぐに膿疱化し自壊してびらん状を呈します。

 【治療】抗ヘルペスウイルス剤含有の軟膏を塗布しますが、経過良好で通常1週間前後で治癒します。

Ⅵ.帯状疱疹

 小児期に水痘に罹患後、神経節に潜伏していた帯状疱疹ウイルスが中年期以降に再活性化することによって発症するとされています。誘引としては過労、老化、外傷、悪性腫瘍、免疫抑制剤や抗癌薬の投与などがあげられます。

 顔面領域では三叉神経領域に好発し、症状は顔面部に神経痛様疼痛および知覚異常などの前駆症状に始まり、顔面皮膚あるいは口腔内に水疱を生じます。水疱は破れてびらんを形成し、強い疼痛を伴います。

 診断は臨床像から容易ですが、水疱を生じる前の時期では困難な場合があります。

 

 【治療】抗ヘルペスウイルス剤の投与が必要です。四肢や体幹の帯状疱疹と比べて、三叉神経に発症した本症は治癒した後の疼痛(疱疹後神経痛)を後遺することも多く、基本的には入院管理の上、安静と薬物療法を行います。特に症状が強い場合や高齢者では疱疹後神経痛の発症率が高くなります。また、顔面神経領域に発症した本症はハント症候群と呼ばれ、治癒後に顔面神経麻痺の後遺症が生じることもあることから、やはり入院管理の上、安静と薬物療法が必要です。

図4 三叉神経第Ⅱ枝に発生した帯状疱疹

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